2011年3月17日木曜日

カバンの中にWOWを入れよう!自主制作プロジェクトから世界?

 あなたのカバンの中に“WOW”、入っていますか? 3分58秒の映像作品『La Promenade』にはWOW(ワォ=驚き?感動?幸せ)が詰まっている。

【動画:WOWのメンバーたちが制作した『La Promenade』】 【拡大画像や他の画像】

 どこの家にでもあるような木の棚。そこには化粧品やクリームや石けんが並んでいる。箱の1つには“La Promenade(散 arad rmt
歩道)”と書かれたラベルが付いている。

 おやおやラベルが動きだした。ラベルのブタが飛び出して、トコトコ歩きだしたぞ。隣の本棚に行くみたい。でもそこには“スキマ”があり、ブタでは床に落ちてしまう。すると本棚に隠れていたキリンが首を伸ばして、滑り台を作ってくれる……『La Promenade』はこうして部屋のあちこちに隠れた動物たちが一緒になる
物語だ。

 豊かな表現。クオリティの高いCG。音楽のセンスもいい。何といっても幸せになれる情感あふれるシナリオが素晴らしい。私が初めてこの映像作品をYouTubeで“発見”した7月には、たかだか800回程度の再生数しかなかった。しかし、その後の3?4週間で再生数は1万4600回を超えた。YouTubeのトップページでも紹介された。ラストシーンまで引き込
まれた私には、その理由はよく分かる。

 『La Promenade』は、どんな人たちが何のために作ったのだろうか? 最初の感動を大切にしたくて、あえて背景情報を頭に入れずに制作メンバーに話を聞いた。

●動物たち、いやデザイナーたちが集まってきた

 制作者はビジュアル?デザイン?スタジオのWOWに所属する3人のビジュアル?デザイ
ナー。石井葉子さん(ビジュアル?デザイナー)、大内裕史さん(ビジュアル?アート?ディレクター)、小島和則さん(ビジュアル?アート?ディレクター)と、1人のプロデューサー東市篤憲さんである。

 「どんなきっかけでこの作品制作が始まったのですか?」と尋ねると、「石井から始まったんです」と東市さん。

 「温かい雰囲気の映像を創り
たくて、1枚のストーリーボードを描きました」、石井さんははにかんで言う。

 振り出しは石井さん。社内の情報掲示板に1枚のコンテ絵を掲載した。すると「良いね!」と感じた大内さんと小島さんがやってきた。ほどなくプロデューサーとして東市さんがやってきた。「みんなで夢がふくらむ物語を創ろうよ」と。まるで石井さんというブタがラベルから
抜け出して、キリンやゾウ、アヒルと一緒になったかような始まり。こうして、『La Promande』の撮影が始まった。制作は3人、東市さんはプロデューサー兼運転手だったという。

 社内公認のプロジェクトだったが、クライアントがいない自主企画なので予算は限られ、制作は仕事の合い間や時間外に行った。考えて、少しずつ撮って、創って、完成までに
は2年弱かかった。

●4分弱の舞台裏

 3人は額を寄せ合い、静止画や動画コンテを寄せ合い、メールで寄り合って、場面のシーンやシナリオを練り上げた。まとまったところで背景画像となる部屋の撮影に移る。

 まずはロケハンだ。スタジオを探し訪ねて、これだと場所を決めた。大道具となる家具はスタジオにあるものだけでは足りない
。古道具屋を訪ねて「これ!」と思ったものを借りようと店主に掛け合う。さらに小道具は私物の持ち寄り。ブタが右に左にトコトコっと上るジュエリースタンドは、石井さんの私物。動くものはCG、動かないものは本物だそうだ。

 場所と道具が揃えば撮影だ。映画撮影のようにモーションコントロールカメラなどを使って、カメラを平行移動させてワンシ
ョットで撮りたいが、機材が高価すぎる。そこで角材を買ってきて、あたかもレールのように床に敷き、その上に撮影カメラを載せる台を自作。5ミリ単位で“手動移動”し、コマ撮りしてつなぐ。スチール撮影はプロに依頼。4人のクリエイターとカメラマンがスタジオ入りすると、思わぬ事態も発生した。

 「古道具屋から電話があって、あの家具売れたから今
日中に返してくれって言うんですよ」と東市さん。そこで借りた道具の撮影を終えると、東市さんが自慢のハイエースを飛ばして返却しに行ったとか。何とか丸1日で背景撮影を完了。CGと言えば“夢の空間”になりがちだが、こんな人間くさい苦労があるので背景に生活のリアリティが出た。

 発案から制作開始、発表まで2年近くかけた、こだわりのワケは何
か。それはこのプロジェクトの名前“WOW id”にある。

●個性と創造のWow id

 CMやアート展示、ファッションショーなどのために映像制作をするWOWは、映像の枠組みにとらわれない活動で著名。2008年のミラノサローネ出品作『tokyo wonder lights and shadows』では、混沌とする東京の光と闇を切り撮り、印象的につなぎあわせた。クライアントの
期待を超える創造がウリだ。

tokyo wonder lights and shadows

 一方、自主制作プロジェクトWOW idは、デザイナーそれぞれが持つ個性を引き出すために、会社として仕掛けた“id Project”。デザイナーに映像制作の初心の喜びを思い出してほしいという狙いだ。しかし、クオリティは“社内発表会”の域をはるかに超える。これまでに4作品がアップされ、映
像作品のアカデミー賞と言われるSIGGRAPH 2010では、WOWから3つの作品が入賞、そのうち2つはWOW idの作品(『SUIREN』と『Pissenlit』)である。

suiren

●カバンの中に「WOW」を入れて

 WOW idの映像を観て、「id(=個性)とは何か」を考えさせられた。それは自分を1枚1枚はがして素に向かうこと。「WOW!」と叫ぶ自分を出す
ことなのだ。個性とは“他人との差別化”じゃない。それまでの自分との差別化、それに目覚めることなのである。

 4人に「好きな場所は?」と聞いてみた。小島さんは井の頭公園(緑と水と花の中に老若男女がいるところ)、大内さんは岩手県(大好きな宮沢賢治の世界観にひかれて)、東市さんは沖縄(シュノーケルで観るスピリチュアルな世界)。そして
石井さんは目黒川の朝焼け。徹夜明けで観た桜のシルエットが忘れられないという。『La Promande』には4人の心の原風景が重なる。

 さて、あなたのバッグの中には「WOW」が入っていますか? 仕事のカバンも休日のカバンも「WOW」がいっぱいがいい。心にしまった動物たちをひっぱり出して生きていきませんか。【郷好文,Business Media 誠】



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引用元:三國志 専門サイト

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